今回は無線LANシリーズの第二回目になります。前回は、無線LANの概要及び構成する6つの基礎技術の内3つを解説しましたので、今回は残っている基礎技術( 変調方式、 多重方式、 空間多重分割)について解説していきたいと思います。
1_無線LANの概要_振り返り
無線LANとは、電波を用いて構築するローカルのネットワークで、ケーブルを使わずに端末同士やルータを接続します。 配線不要で移動性が高く、複数端末を同時接続できるのが利点ですが、電波干渉・到達距離・暗号化などの制約やリスクがあります。
1-1_無線LANの構成要素(例:家庭)
無線LANの構成要素は、ONU、ルータ、アクセスポイント、無線端末等があります。
各構成要素を示したのが下記図になります。
図解1_無線LANの構成図(家庭での例)

- ONU【役割:回線変換】
光やケーブルなどのプロバイダ回線を家庭内で使える信号(Ethernet)に変換する装置。
→基本的にインターネット回線と家庭内ネットワークをつなぐだけで、IPアドレスの割当やルーティングなどの高度な機能は持たない場合が多いです。 - ルータ【役割:ゲートウェイ機能、経路制御、NAT、DHCP、ファイアウォール等】
家の中のローカルネットワークとインターネットをつなぐ「玄関口」として振る舞います。インターネットに接続するための、無線端末へのIPの自動割当(DHCP)に始まり、内部ネットワーク(LAN)と外部ネットワーク(WAN)の経路制御(ルーティング)やNATによるIPの共有、外部からの不要なアクセスを遮断するセキュリティ機能など、多様な役割を果たしています。 - アクセスポイント(AP)【役割:無線の基地局】
外部から有線で運ばれてきたデータをを、無線に変換してスマホやPCと接続させる装置。AP単体ではインターネット接続を提供できません(ルーター等と組み合わせる必要がある) - 無線端末:スマホ・PC・IoTなど、APと電波で通信する機器。
2_無線LANの性能要素(Wi‑Fi1〜6の概観)
無線LANは、ネットワークの技術であるため、速度等の性能要素が重要となってきます。性能要素とは、簡単に言うとWi‑Fiがどれだけ速く・安定して・効率よく通信できるかを決める技術的な要素のことを指します。シリーズ2では変調方式、多重方式、空間多重分割について解説したいと思います。
| ①無線LAN規格 | ②最大通信速度 | ③周波数帯 | ④帯域幅 | ⑤変調方式 (一次変調) | ⑥多重方式 (二次変調) | ⑦空間分割多重 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| WiFi 1 (IEEE 802.11b) | 11 Mbps | 2.4 GHz | 22 MHz | BPSK QPSK | DSSS | なし |
| WiFi 2 (IEEE 802.11a) | 54 Mbps | 5 GHz | 20 MHz | BPSK QPSK | OFDM | なし |
| WiFi 3 (IEEE 802.11g) | 54 Mbps | 2.4 GHz | 20 MHz | BPSK QPSK 16-QAM | OFDM | なし |
| WiFi 4 (IEEE 802.11n) | 600 Mbps | 2.4 GHz, 5 GHz | 20 MHz, 40 MHz | 64-QAM(6bit) | OFDM | MIMO |
| WiFi 5 (IEEE 802.11ac) | 6.9 Gbps | 5 GHz | 20 MHz, 40 MHz, 80 MHz, 160 MHz | 256-QAM(8bit) | OFDM | MU-MIMO |
| WiFi 6 (IEEE 802.11ax) | 9.6 Gbps | 2.4 GHz, 5 GHz | 20 MHz, 40 MHz, 80 MHz, 160 MHz | 1024-QAM(10bit) | OFDMA | MU-MIMO |
※最大通信速度、周波数、帯域幅について、前回の記事を参照ください。
3_変調方式(QAM等)の役割を図解
変調は「電波に情報を乗せる方法」になります。パソコン等の機器からの通信は0と1のデジタルデータで表現されていますが、このままでは、無線の電波でデータを送ることは出来ません。そこで、このデジタルデータを無線の電波(アナログ信仰)に変換する方法のことを変調方式と言います。
図解2_変調は、デジタルデータを電波に変換する

電波は「波」なので、次の 3 つを変えることで情報を載せられます。
① 波の強さ(振幅)、② 波の向き(位相)、③ 波の高さ(周波数)
Wi‑Fi では主に 振幅と位相を組み合わせて情報を増やす方式(
QAM)が使われています。
3-1_QAM は「旗信号の複雑さ」のようなもの
海で船同士が通信するとき、旗の組み合わせで意味を伝える「旗信号」があります。
旗が 4 種類しかなければ、伝えられる情報は少ない
旗が 16 種類あれば、もっと複雑な情報を送れる
旗が 256 種類あれば、さらに大量の情報を一度に送れる
Wi‑Fi の QAM も同じで、
QPSK(4 種類)
16‑QAM(16 種類)
64‑QAM(64 種類)
256‑QAM(256 種類)
1024‑QAM(1024 種類)
というように、使える「旗(組み合わせ)」が増えるほど、一度に送れる情報が増えます。
4_多重方式(二次変調)
多重方式とは、前回解説した周波数(チャネル)を効率よく利用するための技術になります。具体的には、チャネルを分割しサブチャネルを多く作り、並列で利用するようなイメージになります。5GHzのチャネル36をサブチャネルに分割するのが下記イメージになります。
図解3_サブチャネルのイメージ(例:5Ghzのチャネル36をサブチャネル化)

方式としてはOFDMやOFDMAと呼ばれるものがあります。OFDMが分割したサブキャリアを一つの機器が占有するのに対して、OFDMAは各サブキャリアを、別々の機器が利用することが出来ます。
5_空間多重分割(MIMO)
複数のアンテナを利用して同時に複数のデータを送信・受信する技術になり、無線LANの中でも特に速度を一気に引き上げた要素になります。Wifi3までは空間多重分割はありませんでしたが、Wifi4から空間多重分割の技術が使用されています。具体的なイメージについては、以下の図で説明します。
5-1_Wifi3(IEEE802.11g)まで【空間多重分割なし】
同じチャネルの同じタイミングでは、一つの端末のアンテナ一つとAPのアンテナ一つしか同時通信が出来ない。
図解4_空間多重分割なし

5-2_Wifi4(IEEE802.11n)から【SUーMIMO】
同じチャネルの同じタイミングでは、一つの端末とAPしか通信できないことは変わりませんが、 複数のアンテナを利用して、データを並列に送受信できるのが SU-MIMO(Single‑User Multiple‑Input Multiple‑Output)と呼ばれる空間多重分割の技術になります。
図解5_SU-MIMO

5-3_Wifi5(IEEE802.11ac)以降【MUーMIMO】
同じチャネルの同じタイミングでも、 複数のアンテナを利用して、複数の端末と同時に受信できるのが MU-MIMO(Multi‑User Multiple‑Input Multiple‑Output)と呼ばれる空間多重分割の技術になります。
図解5_MU-MIMO

(参考)よくある質問
- Q1無線LANの変調方式とは何ですか?
- A1
変調方式とは、電波という“波”にデータを乗せるための方法です。Wi-Fiでは主にQAM(直交振幅変調)が使われ、波の強さや向きを変えることで0と1の情報を伝えます。QAMの数字が大きいほど一度に送れる情報量が増えますが、電波品質が良くないと使えません。
- Q2多重方式(OFDM・OFDMA)とは何ですか?
- A2
多重方式とは、限られた周波数帯(電波の道路)を効率よく使うための仕組みです。OFDMは帯域を細いサブキャリアに分割して1ユーザーがまとめて利用する方式、OFDMAはそのサブキャリアを複数ユーザーに同時に割り当てる方式で、混雑環境で特に効果を発揮します。
- Q3空間多重分割(MIMO)とは何ですか?
- A3
空間多重分割(MIMO)は、複数のアンテナを使って別々のデータを同時に送受信する技術です。道路はそのままでもトラックの台数を増やすように、同じ周波数帯で通信速度を2倍、4倍と向上させることができます。Wi-Fi 4以降の高速化の中心技術です。


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